ありここ

# 5



 2000年の夏、北海道斜里町に住んでいた紋子さんと、
上士幌町に住んでいた私は、山で偶然出会いました。
そして翌週に、紋子さんは私の家を訪ねて遊びに来てくれたのです。
私たちは車で3時間ほどの距離のところに住んでいたにもかかわらず、
何かと一緒に山登りをしていました。

紋子さんはいつも後輩に慕われていて、面倒見の良いお姉さんという感じでしたが、
あるとき理学療法士を辞めてイギリスに行くと言うのです。
同じタイミングで、私もスペインに移住。
彼女はまたも、私のスペインの家にふらっと会いに来てくれました。
真面目で優しくて大胆!素敵なバランスの持ち主です。
私は今回の原稿を読んで、紋子さんと同居したくなってしまいました。
では、彼女の魅力をお楽しみ下さい。

 寺田 紋子 さん

名前: 寺田 紋子(てらだ あやこ)
年齢: 40
職業: 今は、自然ガイド
   「知床の森のガイド ゆらり」 http://yurali.web.fc2.com/
 (理学療法士・介護支援専門員の資格あり)
  愛知県出身→北海道移住15年目

Q1: 現在の生活にいたるまでの経緯は?

いつの頃からか「人生一度は北海道に住みたい」と思っていました。  高校卒業後、理学療法士の学校へ行くのですが、北海道の学校を受けることができず青森に進学。  一旦は実家に戻って理学療法士として働き始めしましたが、学生時代の友人が帯広から山形に転職するということで、 空いた枠へ私が就職しました。  帯広に来る前は、「北海道に飽きたら沖縄」と思っていたのが、まだ飽きず、 道内を転々としながら今は北海道斜里町に住んでいます。

 3〜4年ですぐに職場を変える生活でしたが、さらに海外にも遊びに行き、
その先々で実に多くの人と出会い、今まで知らなかった世界や価値観があることを知りました。

愛知県の病院で働いていた時に入院していたおばあちゃん「足以(たるい)さん」は、
早く良くなりたいという多くの患者さんとは違ってマイペース。
 「私の名前、変わってるでしょう。「いまを以って足る」という意味なの」。
そうやって80年生きてきた足以さんはとても穏やかで、 ただひたすらに前を向いて進化し続けることばかりが「良いこと」ではないと教えてくれました。

 仕事をやめて、ロンドン近郊の老夫婦宅へ居候させてもらった時のこと。
ホームステイ先の庭 こぼれた種から生長した庭の野菜を食べ、自然に生えてきた花を移植して花壇を作ることを教えてもらいました。
 落ち葉や雑草を集めて堆肥にすること、雨どいの水を溜めて庭に撒くこと…
たった2週間だったけれど、庭そのものが小さな生態系を作っていて、 そこからの収穫に感謝し、保存したり活用したりする生活はとても魅力的でした。

(右写真:ホームステイ先の庭)



 仕事に就かずフラフラしていた最中、知床が世界遺産に登録されました。
観光客は激増し、ガイドが足りなくなりました。
知り合いのおじさんの紹介で、とってもお気楽なアルバイトガイドになりました。
民宿に住み込んで、ガイドがない時は民宿の手伝いをしながらひと夏過ごしました。
シーズンが終わってもそのまま何とな〜く近くに部屋を借り、たま〜にガイドの依頼がくるので引き受け…  とやっているうちにひと夏過ぎ、ふた夏過ぎ。
アルバイトのままよりは、と思って事業所にしました。
ガイドをやるぞー!みたいな固い意志を持って、というよりは、流れに流されるままに今はガイドで生計を立てている、という感じです。

Q2: 日々の暮らしについて

知床の自然ガイドをしながら、気ままに暮らしています。 知床は、観光地であると同時に、深い森が残されています。
 大勢の観光客に囲まれてただ写真を撮って… だけでは感じることのできない魅力をお伝えするべく、森を一緒に歩くのが自然ガイドです。
ただ森を歩くだけでも気持ちの良いものですが、音や匂い、様々な生き物の命を感じながらじっくり歩くのもまた楽しいものです。
少人数でゆっくりと森を歩きながら、計り知れない自然の力を感じるその手助けができれば、と思っています。

 知床ですから時にはヒグマに遭遇することもあります(滅多にありませんが)。
その時には全員の命を守らなければなりません。「クマ撃退スプレー」なるものを携行してガイドしています。

 夏の間は、こんなガイドと趣味で行く山登りとで、あっという間に時間が過ぎていきます。
本当は畑を作りたいのですが、市民農園を借りるには私のポリシーは広く理解されないものですから…(Q3参照)

 我が家ではミミズを飼っています。野菜用のプランターに土とミミズを入れ、野菜くずや卵の殻、お茶ガラなどを投入しています。
ちゃんと土に返るものがほとんどですが、トマトの種が分解されずに発芽し、冬の間も立派に実っていたり、 ジャガイモの皮やキャベツの芯から発芽して、小さいけれども食べられるものが収穫できたりすることがあります。

 雪が積もったら再びガイドと山登りです。
時に吹雪に閉ざされる地域ですが、冬の外遊びは何よりの楽しみです。
でも外遊びに適したお天気はそう多くはありません。 やり残すことがたくさんあり、よし来年!と毎年思い続けて今に至ります。



Q3: 将来のプロジェクトは?

小川が裏手に流れている空き家を譲っていただけるか交渉中。
手に入れることができたら、庭で野菜作り、小川で水力発電(?!)、などなど妄想しています。
畑もあまり草取りなどせず、植物の力に任せて収穫できる土地になればいいなぁと思っています。

 家は二世帯住宅風に改装して、両親やお友達に泊まりに来てもらえるように、
そして自分がよぼよぼのおばあちゃんになる頃には、もう一人(その頃には友達もお年寄り)気のおけない人に住んでもらえるように、 これまた妄想中です。

 あちこちに住み、いろいろな国を旅してきましたが、
都市での生活よりは土にまみれる生活がしたいと思うタイミングと、
それに叶う理想的な土地を見つけられたことで、より夢(妄想?)が具体的になっています。

 「晴耕雨読」ではありませんが、お天気が悪ければ家の中で過ごし、
晴れれば外仕事をし、という暮らしができることがとても嬉しいです。
もしこの家を手に入れることができなかったら…再び流れに身を任せているでしょう。

Q4: 好きな本、映画、音楽。

聞かれてハッとしました。
最近はガイドの腕に磨きをかけるべく(?)仕事に関係する本ばかり読み、
聴いている音楽は語学のレッスンCDか鳥の声…
少しだけ読んでとても感銘を受けたのですが、難しすぎて中断している本で、
「スモール・イズ・ビューティフル」が私の指南書となりそうな予感がしています。

あやこさんのウェブサイト
「知床の森のガイド ゆらり」http://yurali.web.fc2.com/

2011 / 6 / 24 掲載

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