# 11

「カラン、カラン。」、カウベルの音で目が覚める。
石でできた壁、太い木の梁、どっしりした窓から見える牧歌的風景、山の稜線。
「私、ハイジになっちゃったのかな。」
パトリの家で迎える朝は、静かで、のどかで、温かい何かに包まれているようだった。

2012年春、スペイン南部の山に暮らす友人（彼にもコラム依頼中）の所に滞在したとき、
「北部に行くなら、パトリに会った方がいい。絶対に気が合うから。」と、電話番号のメモをくれた。
バス停に迎えに来たパトリの車は、どんどん街から離れ、山奥へと入って行く。
これはナショナルジオグラフィック？美しい。美しすぎる。
カンタブリアの山々、谷間に点在する石の家。100年前と変わらない景色がここにある。

パトリの見せるもの、全てがすごい。
「私の家も初めはこんなだったの。」と、屋根の無い、つたの絡まる廃墟（要は、ただの石積み）。
昔は一階部分で牛を数頭、豚を一頭飼い、二階部分の2/3が住居、
1/3は干し草置き場だったという小さな農家を手に入れ、
友人たちから工具を借り、廃材が出ればもらいに行き、
お金ができると少しずつ材料を買って手を加え、7年越しでやっと２階の居住部分が完成。
（屋根も板状に加工した石で出来ている。昔の人は山で石を採って作ったそうで、
現在も同じものを販売している。これもすごいこと。）
100年前のドアの鍵や釘は、手作業で作られたものだった。どっしりと重い。
博物館にあってもおかしくない。


パトリは過疎で手を入れなくなった土地を一人で何ができるか考え、
独学の有機農法で少しずつ少しずつ手をかけて、2000本の果樹園にしたと言う。
石を取り除き、シートをかけ太陽熱で殺菌、耕し、草を取り、木を植える。
支えを立て、誘引し、収穫、出荷、販売。ジャム作り、ビンの消毒、販売。
パートナーや友人たちの協力はあるものの、基本的には一人で行う。気が遠くなる仕事の量だ。

散歩に出れば、きらきら輝く手つかずの美しい森と沢。
豊かだ。空気が、水が、大地が豊かに存在する。ここには、何も無くて、すべてある。

大地の人、パトリシア。 挑戦する自然体。私の憧れの人だ。

名前 : パトリシア フェルナンデス エギザベル
年齢 : 35歳
職業 : バイオロジックファーマー（エコロジー農家）
国籍 : スペイン

Q1: 現在の生活にいたるまでの経緯は？

私は小さい頃、多くの時間を田舎で過ごしたの。だから、いつもこうやって暮らしたいと思っていた。 こうして8年前、このカンタブリア地方、valle de pasの山の中に腰を下ろすことにしたの。 この豊かな自然の中に。 これらの豊かなもの全てとともに、私の人生のプロジェクトを育て始めたわ。 田舎という環境において、私を限りなく成長させてくれることを。

Q3: 将来のプロジェクトは?

この果樹園を続けること。そのために、今の状態を維持するための収入を得ること。 そうね、少なくとも経済的損失も無くってこと。
もっとできるだけ自給自足な暮らしをして、そして幸せであること。

Q4: 好きな本、映画、音楽。

本 :
大好きな本ってのは無いけど、大切なのはたくさん。
「エトルリアの微笑み」ホセ・ルイス・サンペドロ
「seda（絹）」アレッサンドロ・バリコ　→日本語訳出版なし
「四つの約束」ミゲル・ルイス

映画 :
El Frasco　(Alberto Lucchi Guion 2008　アルゼンチン)　→日本未公開
El baile de la victoria　(Fernando Trueba 2009　スペイン)　→日本未公開
el planeta libre　(Coline Serreau 1996　フランス)　→日本未公開
他にもたくさん。

音楽 :
音楽は、ほとんど全部好き。エレクトロミュージック以外はね。